6回に渡って、私が小売業での経験を通して学んだ「強い小売業の法則」を紹介していきたい。
第6回は「スクラップ&ビルド」である。
小売業における「スクラップ&ビルド」とは?
小売業における「スクラップ&ビルド」の重要性とは?
などの疑問に答える。
そこから、変わることない商売の成功方法がわかる。
大手小売業イオンに35年間勤務
2011年よりアセアン事業(マレーシア、ベトナム、マレーシア)において、管理担当として合弁事業会社の立上げに取組む。

小売業におけるスクラップ&ビルド
今、注目を集める「イオン」「ドン・キホーテ」「ウォルマート」といった小売りのエクセレントカンパニー創業者が「スクラップ&ビルドの重要性」について語った言葉を見ていく。
小売の巨人は「変えるべきもの」と「変えてはいけないもの」を熟知している。
前者が「業態」「立地」「商流」など時代とともに最適解が変わるもの
後者が「お客さま第一」「下げに設ける」「大黒柱に車をつけよ」などの時代とともに変わることのない哲学である。
ドン・キホーテ
第五条 果敢な挑戦の手を緩めず、かつ現実を直視した速やかな撤退を恐れない
Pan Pacific Strategy Institute 及びPan Pacific Retail Management (Asia)創業会長 兼 最高顧問 安田 隆夫
源流「PPIHグループの理念」より(PPIHグループホームページ)
私の信条は「攻めは他人がやらないことをアグレッシブに。しかし守りはベーシックに」だ。そもそも守りの基礎ができていなければ、アグレッシブな攻撃など怖くて仕掛けようがない。
安田隆夫. 安売り王一代 私の「ドン・キホーテ」人生 (文春新書)
イオン
「大黒柱に車をつけよ」
スピードをもって過去を捨て、方向転換できる。
岡田卓也の十章 出版社 : 商業界 、発売日 : 2007/8/1 より
かつてイオンには、スクラップ&ビルドに対して躊躇しない果敢な行動原理があった。小嶋にも岡田卓也にしても、ダメなものを引きずらないある種非情とも思える勇気がある。岡田卓也に至っては、創るよりも壊すほうが好きと言わんばかりに喜々としてスクラップする。そうして一から種をまき、育成成長させるという比較的長いタームでの起業とも言うべき思想があった。
イオン””門外不出の書””はなぜ世に出たのか
“”イオンを創った女””の孤高な生き方
PRESIDENT Online /PRESIDENT BOOKS
東和コンサルティング代表
東海 友和

ウォルマート
・もし手に負えない兆候が現れたら、つまり予測したほどの数字が出てこなかったら、ただちに撤退 し、これまで築いてきたものを守る
・絶えず変化するのがウォルマートの企業文化そのものであることを全員に徹底させるのが、自分の使命だと考えるようになった。会社の発展の節目ごとに、変化を強要してきたのだ。ウォルマート の企業文化の最大の長所は、過去をすべて捨て、ただちに方向転換できること
サム・ウォルトン著「私のウォルマート商法-すべて小さく考えよ-」(渥美俊一・桜井多恵子監訳、講談社+α文庫)から引用。

スクラップ&ビルドの本質
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』によると
老朽化して非効率な工場設備や行政機構を廃棄・廃止して、新しい生産施設・行政機構におきかえることによって、生産設備・行政機構の集中化、効率化などを実現すること。
日本の流通業においては、イオングループ等がこの手法を多く活用している。例として、駅前立地の小型店や多層階の店舗を閉鎖して郊外に大型で駐車場のあるショッピングセンターを作って移転したりする手法がある。
小売業では、老朽化した店舗を閉店し、同一エリア内でロケーションや規模を見直し、新店舗にリプレイスすることをいう。
変化する経営環境に合わせて店舗をリプレイスし、品ぞろえやサービスを見直し、各地域のお客さまニーズやウォンツに対応した店舗構成を常に維持していくのである。
ご存じの通り、コンビニ業界では、常に各社が競ってスクラップアンドビルドを進め、店舗の競争力の維持を図っている。
スクラップ&ビルドの重要性
小売業の実力を示す重要な指標の1つに店舗年齢がある。
人間でいう小学生(6~12歳)が原則であり
店舗の平均年齢を新店開発とスクラップ&ビルドによって若く保っていかなくてはを継続的に事業を拡大していこと困難である。
10年ほど前、イオンでは増床店舗も含めて、店舗年齢は15歳前後であり、同業者の中では一番若かったことを覚えている。
また、当時のダイエーは30歳を過ぎた店舗が大半を占めていたと記憶する。
ダイエーの売場づくり、商品開発には一日の長があったが、業績不振により店舗開発は遅れ、店舗活性化もままならない状況であったと推測する。
い小売業におけるスクラップ&ビルドの実施
スクラップ&ビルドであるから、新たなことを始める前に、やめること明確にしなければならない。
赤字を埋めるのではなく、スクラップに該当する店や事業をきっぱり止め赤字をゼロにして(撤退には一時的に、撤退のための経費が余分にかかるが)、新たな店や事業で利益を確保していくのである。
見きりをつける(=損切り)ことが重要なのである。
また、イオンやドン・キホーテのような巨大企業は例外として
小規模の小売事業者ではスクラップ&ビルドと同時に、ターゲットとするお客さまを明確にして、自社が扱う品揃えやサービスを絞り込んでいくことが重要になる。
これからの時代は、価格やマーケティング政策を絞りこみ、大手と差別化する必要となる。
※中小事業者の戦略についてはこれからの記事で展開していきたい。
次世代の事例
イオンの事例: 都市型ショッピングセンター「イオンそよら」
イオンにおいてもアフタ・コロナにおける
*もっと手間なく楽に買物したい
*身近なところで買物を済ませたい
*ネットも店舗も効率よく使いたい
お客さまのニーズに対応した都市型ショッピングセンター「イオンそよら」を開発するとのことである。
今後、新規出店にあわせ、既存店のスクラップ&ビルドにも活用されるのではないかと思われる。
イオンリテールの都市型ショッピングセンター
スーパーや雑貨店、カフェ、クリニック、カルチャー教室など、生活に密着している施設が別々に立地していることが多い都市部では、交通網の発達やアクセスの良さから仕事がある日でも施設に立ち
寄れるため、「もっと手間なく楽に買物したい」「身近なところで買物を済ませたい」「ネットも店舗も効率よく使いたい」などの利便性がより求められ、買物や用事を一カ所で済ませたいというニーズ高まっています。

イオンリテールは10月15日、堺市北区の旧「イオン新金岡店」跡地に計画中の施設名称を「イオンそよら新金岡」(以下、当SC)として着工を開始し、2021年夏の開業をめざします。
「イオンそよら」は、当社が小商圏の新フォーマットとして展開する都市型ショッピングセンターです。当SCは1号店の「イオンそよら海老江」に次いで2店舗目の出店となります
https://www.aeonretail.jp/pdf/201005R_1.pdf
ドン・キホーテの事例: 「MEGAドン・キホーテ」
われわれはGMSだった長崎屋を買収し「MEGAドン・キホーテ」にしたが、軒並み高収益を上げている。それは、違うことをやったからだ。長崎屋はイトーヨーカ堂やイオンに比べたら店舗も小さく勝ち目がなかった。そこで、レベルアップするのではなく、中身を変えた。われわれは買い回りなんかしてくれなくたっていいと思っている。1階と2階を分離して商品構成と演出を考えている。GMSは1階で売れても2階は売れないというのが永遠の悩みだか、MEGAドン・キホーテは1階と2階の売り上げがほぼ同じくらいだ。
安田隆夫. 安売り王一代 私の「ドン・キホーテ」人生 (文春新書)
また、ユニーのピアゴ、アピタも「MEGAドン・キホーテ」の手法をさらに進化させ、リニューアルを進めている。
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ユニー株式会社(本社:愛知県稲沢市、代表取締役社長:関口憲司、以下「ユニー」)は、「アピタ岩倉(いわくら)店」(愛知県岩倉市)を全面改装し、2020 年 11 月 27 日(金)に、「APITAプラス岩倉店」としてリニューアルオープンします。
(中略)
お客さまに最も近い存在である店舗スタッフが、商品仕入・価格設定・陳列・販売に至るまで、あらゆる自由裁量権を持つ「権限委譲」システムに基づいた「個店経営」を導入しお客さまから寄せられる様々なニーズにスタッフ一人ひとりが真摯に向き合い、それらニーズの具現化を徹底的に追求してまいります。
さらに、「すべては顧客の『楽しさ』につながる」というストアコンセプトの下、効率化よりもお客さまのお買い物の楽しさを重視した商品提案を行うほか、ユニーの強みである「良品質」商品をお求めし易い価格で提供する「廉価良品」の考えに基づいた価格設定とすることなどによって、地域No.1の店舗を目指してまいります。

https://ppih.co.jp/news/pdf/news_201116.pdf
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強い小売業の法則: 強い小売業は「スクラップ&ビルド」により若い店舗構成を維持する
本日も最後までお読み頂きありがとうございました。
MASA


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